映画

『おもひでぽろぽろ』

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皆様こんにちは、はまさんすーです。
 今回ご紹介する映画は
『おもひでぽろぽろ』
1991年にスタジオジブリの高畑勲監督が制作し、公開されたアニメ作品です。
私は高畑勲監督の作品の中でこの作品がいちばん好きです。
「分数の割り算がすんなり出来た人はその後の人生もすんなりいくらしいのよ。」

あらすじ

あなたは分数の割り算はすんなりできていましたか?
舞台は1982年の夏。
東京で働く27歳のOL、岡島タエ子は休暇を取り山形の親類の農家の下へこれで二度目となる農家体験をするために寝台特急で旅立つのであった。
そしてその車中、ふとしたことから彼女は小学5年生であった昔の自分を思い出す。
思い出の中のタエ子は、快活で少しわがままで、どこにでもいるような、
でも彼女は彼女なりの悩みや夢を持った女の子であった。
物語は現在のタエ子と小学5年生の頃のタエ子のエピソードが交錯し、入り混じり、
ときには思い出話として、ときには回想として浮かんでは消えていく。
山形に着いたタエ子は出迎え役を任されたトシオという男性と出会い、着いた先での紅花摘みなどの農作業や、山形の自然との触れ合いを通して彼や、農家の方々との交流を深めていく。
また、そんな中で27歳のタエ子は過去の自分や、現在における他者との交流を通じて、今までの自分の人生を振り返り、これからの自分の人生について考えていくようになる。
大人になった今からしてみれば昔の自分の苦悩などは笑い話だ。
しかし、当時の自分にとって見ればそれが全てだったのだ。
あれが気に入らない、これがいい。あれが流行ってる、友達はこう言ってる。
男子はバカだ、女子はバカだ。一事が万事こんな調子である。
しかし、よくよく考えると大人になった今でも同じようなものである。
何も変わってはいないのだ。少し嘘をつくのが上手になっただけである。
自分や他人に対して。
そして、想い出はいつも優しいなんて嘘っぱちである。
恥ずかしい想い出や傷ついた想い出はいつも唐突に私達に襲い掛かり、
胸の深い所の傷をえぐっていくのだ。
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タエ子は過去の感傷に再び傷ついたり、励まされたりしながら自分のほんとうにしたいことに気づいていく。
だが中途半端な自分の存在への苦悩が彼女を臆病にさせていた。
終盤、自分の胸の奥でずっと凝り固まり、しこりとして残っていた苦い記憶をトシオへと吐露するのだが、彼はこともなげにそれを解きほぐしていく。
そこで彼女はやっと過去の自分と折り合いがつけられたのである。
想い出は優しいばかりじゃない。けど、過去の自分を否定するのではなく受け入れることによって前へと進んでいけるのである。
想い出を思い出すのは手で水を掬うことに似ている。
掬っていく間に想い出の行く分かは指の隙間からぽろぽろと零れ落ち、そして水かさが増していくにつれて昔の水を掬うことは難しくなっていく。
しかし、それでいいのだ。昔の水は見えなくなっているかもしれない、
でも確実にそこに存在はしているのである。その上に私は浮かんでいるのである。
それでいいのだ。

感想

この作品の特徴として27歳の大人のタエ子の世界は明るくはっきりとした色調で描かれ
対比するように小学5年生の頃のタエ子の世界は淡く優しい色調で描かれている。
また当時の流行や文化、町並みなどが緻密に描写されており、
山形やその周辺の自然の風景描写などは圧巻である。
そして何よりも登場人物たちの現実感、リアリティが凄まじい。
生き生きとした彼らの表情や仕草、それら全ては高畑勲監督の
日常に対する観察眼と表現力、そして何よりの人間愛、自然愛の賜物であろう。
そして、この作品のエンディングが私は大好きである。エンディングの演出も去ることながら、
エンディング曲としてベット・ミドラーの「The Rose」という曲が流れるのだが、
その歌詞を高畑勲監督自身が日本語訳し、都はるみさんに歌ってもらっているのである。
ぜひ皆さんにはその歌詞には傾聴して感じ入ってもらいたいです。
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また、この作品の舞台となっている1982年当時と現在を比べてみると様々のものが変化している。
科学技術はもちろんのこと、習俗やモラルの変化、当時許されなかったものが許されるようになったり、
また逆に許されていたものが許されなくなったりもしている。
どちらが良いのかは一概には言えない。当時には当時の、現在には現在の問題があるのだ。
作中でひょっこりひょうたん島が流れるのだがその歌詞にはこうある
「今日がダメなら明日があるさ、明日がダメなら明後日があるさ・・・」と。
現代において時間は一方向にしか流れてはくれない。
立ち止まったり振り返っていたりしたとしても進んでしまっているのだ。
だったらせめて、よりよい明日を求めるのが人間というものだろう。
皆さんの明日が良い一日でありますように。
P.S.高畑勲監督の新しい作品が見られないことを心から残念に思います。
  高畑勲監督のご冥福をお祈りします。