映画

『東京ゴッドファーザーズ』

皆様こんにちは、はまさんすーです

今回ご紹介するのは

『東京ゴッドファーザーズ』

です

「東京ゴッドファーザーズ」は2003年に公開された、今敏監督によるアニメ映画です。

今敏監督は「パーフェクトブルー」、「千年女優」、「パプリカ」で有名なアニメ監督ですが、2010年に早逝されてしまいました。

また、この映画の音楽はムーンライダーズの鈴木慶一氏が担当しており、

ゲーム好きの人は「MOTHER」シリーズの音楽に担当者として、同氏には馴染み深いでしょう。

主人公3人の声優を江守徹、梅垣義明、岡本綾、など有名な方々が担当しており、

脇を固めるのも、こおろぎさとみ、石丸博也、能登麻美子、大塚明夫、小山力也、山寺宏一などそうそうたるメンツです。

今敏監督はこの映画の制作の際、「3人の名付け親」という1949年のジョン・フォード監督の映画から着想を得られたそうです。

あらすじ

クリスマス前夜、キリストの生誕を祝う東方からの3博士の演劇が行われていた。

その後行われる説教で神父は「この世に居場所がないことが一番つらいことである」と言っている。

その説法に感動しているオカマのホームレスのハナ。

それをムスッとしながらも聞く、同じくホームレスのおっさんのギン。

2人は公園の炊き出しを土産に、ビルの屋上にいたホームレス仲間の家出少女ミユキと合流した。

3人はハナの提案でクリスマスプレゼントを漁りにゴミ捨て場へと向かった。

お互いに罵りながらゴミを漁っていると、どこからか赤ん坊の声がするではないか。

可愛い女の子を育てるのが夢だったというハナは、警察に届けようという2人を黙らせ、赤ん坊を自分たちで保護してしまう。


「キヨコ」という名前まで勝手に名付け、彼ら3人の笑いと涙、苦難と祝福、愛と感動に溢れた珍道中が始まる。

これはそんな彼らが遭遇する小さな奇跡の物語。

この映画はずっとコメディタッチで描かれるのですが、何故か涙が溢れてしまいそうになる瞬間がいっぱいあるのです。

この映画を見た人はみんな、主人公のギン、ハナ、ミユキの3人がたまらなく愛おしくなり、

笑いながら泣き、最後には心があったかくなっていることでしょう。

今敏監督は物語の緩急の付け方が抜群にうまいのです。

1つのテーマ、ミステリーに迫っていく物語の中で、アップテンポの場面では本当にハラハラさせられ、

叙情的なシーンでも全く間延びせず、クライマックスまで緊張と緩和を繰り返しながら、ムードが高めさせられていくのです。


もちろんそこで大きな影響を及ぼしているのは、鈴木慶一氏の音楽です。

趣深く、しかし、どこかひょうひょうとした音楽たちが、エモーショナルな場面で私達の心を優しく撫でてくれるのです。

悲しい場面でもそんな音楽が寄り添ってくれることで、悲壮的になりすぎず、滑稽な雰囲気を残してくれているのです。

演出面でも、そういった音楽が場面場面の雰囲気を際立たせてくれており、

キャラクターたちの人生模様が浮き彫りとなってくる効果があります。

黒澤明監督の「生きる」でも、物悲しい場面で敢えて明るい音楽を流すことで、

主人公の悲壮さを逆説的に盛り上げている場面があるのですが、この映画ではそのバランスが絶妙ですね。

悲壮になりすぎず、滑稽になりすぎず、ドラマとコメディの塩梅が絶妙に両立されているのです。

そしてそこで描かれる今敏監督による精緻なアニメーションによって、私達の心はこの映画の世界にとらわれてしまうのです。

精密な背景描写と、アニメチックながらもリアリティを損なわないキャラ描写が、

この物語がどこかで本当に起こりそうな物語だと私達に錯覚させてくれているのです。

赤ん坊とホームレスという珍妙な取り合わせが巻き起こす物語に、あなたもきっと虜となり、

笑いと哀愁に溢れた生命賛歌に感動することでしょう。

また、この映画の別の楽しみの1つとして、物語の随所に「天使の羽根」がたくさんモチーフとして出てくるのですが、

あなたはいくつ見つけられるでしょうか?

チャレンジしてみてください。

ここからネタバレ注意!

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赤ん坊を保護したホームレス3人組なのですが、その後、3人は赤ん坊の親探しに出かけます。

その途上で3人は自分の人生を振り返り、後悔し、嘆きます。

3人が3人共家族に問題を抱えていたのです。


ギンは元競輪選手で、病気のわが子を救うために八百長に手を出し、その結果家族を失ってしまっていた・・・と最初は嘘をついていたのですが、

実はギャンブルで借金を作り、家族に合わす顔がなくなりホームレスへと身をやつしていたのです。

ミユキは飼い猫が原因で父親を刺してしまい、家出をし、ホームレスとなり、

ハナは親の顔も知らない生まれで、オカマバーで歌手をしていたのだが、

彼氏との死別がきっかけで世捨て人になってしまっていたという、

三者三様ともに家族というものに対して哀しみを抱いていたのでした。

親探しの最中、彼らはいろんな苦難に会うのですが、その度に小さな奇跡が彼らを救うのでした。

まるでその赤ん坊自身が祝福を受けた子供であるみたいに彼らを救うのです。

降って湧いたように粉ミルクをゲットしたり、ヤクザの抗争ですんでのところで生き延びたり、

大怪我で行き倒れている所を救われたり、暴走救急車から逃れられたりと、

赤ん坊の泣き声に導かれるように彼らは苦難を乗り越えていくのです。


終盤、ギンは自分の娘と偶然にも再会するのですが、そこで気を使ったハナとミユキは彼と別れます。

ハナとミユキはその後、赤ん坊を捨てたと思しき女性と出会い、彼女に赤ん坊を返すのですが、

独自に彼女の素性を突き止めたギンは、その女性は本当の赤ん坊ではなく、赤ん坊泥棒だと知ります。

そこからの大立ち回りはすごかったですね。

盗んだトラックで暴走する女性とそれを追うタクシーに乗った彼ら。

途中でギンはまじで死んだと思いました(笑)

彼らを乗せたタクシーの運ちゃんがこの物語で一番不幸な人物だと思います(笑)

女性を追いかけたタクシーが最後、画面外でクラッシュしている場面は正直笑ってしまいました。

そして、ビルの屋上で赤ん坊と心中しようとする女性を止めようと説得するミユキは感動的でしたね。

まるで自分にも言い聞かせるように、生命の尊さと、家族の思いをぶつけるミユキ。

しかし、水子を生んだことで狂ってしまった女性は説得もむなしく飛び降りようとしてしまうのですが、

ギリギリのところでギンとハナがその女性を繋ぎ止めます。

その時、女性の目に赤ん坊が「おうちに帰りたい」と言っているのが映ります。

ぶら下がった状態で赤ん坊を返そうとしたのですが、あわや、赤ん坊だけ落ちてしまいます。

それを助けようとハナがビルから飛びます。

赤ん坊を掴み、デパートの旗につかまって助かったかに見えましたが、その旗も壊れていきます。

みんなが目を覆ったその瞬間、突然強風が吹き、旗が大きく風を受け、ゆっくりと赤ん坊とハナは地上へと降りていくのでした。

まるでそれは天使の降臨のようです。

奇跡を起こした赤ん坊は無事、本当の両親のところへと戻り、ホームレス3人衆は病院に入院していました。

警察に事情を説明される本当の両親たちは、赤ん坊を救ってくれた3人に

名付け親(ゴッドファーザー)になってもらおうと彼らのもとをその警官と共に訪れます。

訪れた彼らを見て固まるミユキ。

両親を案内したその警官は実はミユキの父親だったのです。

そう、これは彼らが巻き起こした小さな奇跡の物語。

EDで流れる、鈴木慶一氏がベートーヴェンの第九にオリジナルの歌詞をつけてアレンジした曲がまた最高ですので、

ぜひ一度、聴いてみてください。

あと、ミユキが動揺したときや、感情が動かされた時に顔をクシャッとする動作をするのですが、私はそこがたまらなく好きです。

この物語は、人間の悲哀や滑稽さが描かれているのですが、それと共に、

生命の無垢さ、生きるということへの強さなども描かれています。

キリスト教的には人間は生まれながらに罪を背負って産まれてくるのですが、

この映画において登場人物たちはみな、産まれたあと、人生を生きていく上で罪を獲得していった人々なのです。

生命それ自体には罪などないのです。

無垢な生命と触れ合うことで、彼らは自分の人生を見つめ直し、まるで浄化されていくようです。

人生に対してもう一度踏み出す勇気やきっかけをもらった彼ら。

これこそが彼らがもらった一番のサンタからのプレゼントかもしれませんね。

いつか、家族を持つかもしれないあなたへ、この映画は最高のプレゼントとなるはずです。

それでは皆さんまたお会いしましょう。